【イベントレポート】
2026年9月2日(水)、琉球大学の西普天間キャンパスにて、セミナー「医療・創薬スタートアップ最前線 〜研究者×医療系VCで挑む、琉大発スタートアップの創出〜」を開催しました。
「起業すると研究が続けられなくなるのでは?」「経営や資金調達の知識がない」といった研究者ならではの不安を解消し、研究者は技術や医療的知見に専念し、ビジネスはプロが担う強力な分業体制という新たな社会実装の形について、最前線のプレイヤーたちの取組みに興味関心を持つ学内外の医学部関係者約25名が参加しました。
|オープニング:地域と金融、VCが一体となった「三位一体」のサポート体制
イベントの冒頭、本学の研究共創機構スタートアップユニットの羽賀 史浩 氏より、琉球大学におけるスタートアップ創出・支援の取り組みが紹介されました。
本学では、2023年7月に千原キャンパスに「琉ラボ」を開設して以来、精力的な起業家育成活動を展開してきました。今年度は新たに「ブルーエコノミー&先端医療 Deep Tech 推進事業」を重点的な取り組みとして掲げ、成長支援・人材支援・国際化支援を一体的に行っています。
続いて、本イベントの共催である地元金融機関の2行より、スタートアップ支援への力強いコミットメントが語られました。
琉球銀行 小川 真司 氏
スタートアップ支援に関する連携協定に基づき、同行が持つ広範なビジネスネットワークやファイナンス・アクセラレーション機能を最大限に活用し、優れた研究成果を地域社会や経済活性化へと還元していく決意が述べられました。
沖縄銀行 牧志 一 氏
琉球大学、沖縄銀行、そして医療特化VCであるDCIパートナーズによる基本合意の締結に触れ、金融機関とVCがタッグを組んで研究者の事業化を支援する有機的な枠組みを紹介しました。
そして、セミナープログラムがスタート!
|VC取組紹介:シーズ段階から会社を共に創り出す「ベンチャークリエーション」
DCIパートナーズ株式会社 代表取締役 成田 宏紀 氏
成田氏は、同社が実践する「ベンチャークリエーション」という投資手法について解説。これは、すでに存在するベンチャーへ投資するだけでなく、大学や研究機関に眠る研究シーズを事業化するため、会社設立、ライセンス交渉、知財戦略、事業計画策定までをVC主導でパッケージ化し、ハンズオンで会社そのものを立ち上げる先駆的なアプローチです。
「ITやサービス系ベンチャーが東京に集中する一方で、バイオベンチャーは大学医学部などの研究拠点周辺に形成される『大学密着型・地域密着型産業』です。地方特有の人材・資金不足という壁は、VCの資金と徹底的なハンズオン支援によって乗り越えることができます。」
新薬は「次の世代へ残せる大切な資産」であるという成田氏の信念のもと、金融資本とサイエンスを結びつける同社の取り組みに、多くの研究者が深くうなずいていました。
| ゲスト登壇①:「やっぱり人。」医療開発を加速する『最適に編む』チームビルディング
株式会社xCARE 共同創業者・取締役 棚瀬 敦 氏
22年間にわたり大手製薬企業等でグローバル臨床開発を牽引してきた棚瀬氏は、医薬品・医療機器の事業化に必要なタスクが、近年の技術の多様化(モダリティの多様化)に伴い極めて複雑になっている現状を指摘しました。
知財、薬事、開発戦略、非臨床・臨床、海外当局対応など、必要な専門スキルは多岐にわたり、これをすべてスタートアップが正社員として雇用したり、高額なCROへフルアウトソースしたりすることには、コストや社内ノウハウ蓄積の面で限界があります。
そこで棚瀬氏が提案したのが、第三の選択肢である「業務委託エキスパートの活用」です。
必要な人材を、必要なタイミングで、必要な期間だけ、プロジェクトメンバーとしてシームレスにチームへ組み込む。人・組織・知識を『最適に編む』ことこそが、初期のスタートアップが医療イノベーションを確実に社会実装(患者さんへの価値創出)するための鍵となります。
国内外に2,500名以上の医療・創薬専門家ネットワークを持つ同社のシステムは、資金やチームビルディングに悩む大学発スタートアップにとって、極めて現実的で心強いソリューションとして提示されました。
|ゲスト登壇②:シリコンバレー発想で挑む、沖縄の医療課題と産業創出
Taqtik Health Inc. 共同創業者・社長/株式会社シリコンバレーテック 代表取締役社長 橋本 康弘 氏
医師であり、日米双方でスタートアップの起業・上場・大手製薬の研究所長などを歴任してきた橋本氏は、現在、沖縄の現場で取り組んでいる「僻地・離島における医療課題解決」プロジェクトの実践から得た学びを共有しました。
橋本氏は、「Scienceはスタート地点であり、それを患者に届く価値へ翻訳・変換することがビジネスの本質である」と強調しました。そして、持続可能なスタートアップを支える要素として、以下の「4本の柱」を提唱しました。
People(人): 創業者がすべてを背負うのではなく、異なる強みを持つメンバーを巻き込み、補完し合うチームをつくる。
Science(科学): 研究成果を、患者が必要とする具体的な製品やサービスに落とし込む。
Capital(資金): 資金調達そのものを目的にせず、「そのお金でどのリスクを下げ、企業価値を高めるか」を逆算して活用する。
Intangibles(無形要素): 信頼(Trust)、パーパス(Purpose)、市場参入のタイミング、カルチャーといった、数字で測れない部分を大切にする。
「離島の医療格差を、ゼロにする。」という強いパーパスを掲げ、地域の医療機関や先端技術(IoT・AI)を組み合わせ、沖縄をモデルケースとして全国・世界へ横展開していくという同社のビジョンは、先行事例として大変参考になりました。
|クロストーク:研究成果を社会実装するために必要な仲間・資金・事業戦略とは
セミナーの後半は、モデレーターの羽賀氏のもと、登壇者全員によるクロストークが展開されました。
「研究成果をどうやって事業化するのか?」「経営を任せられる人はどう探せばいいのか?」「投資家はどういう点を見てるのか?」といった、研究者が初期段階で直面する疑問に対し、当事者としての経験談やアドバイスが飛び交いました。
ディスカッションの中で一貫して強調されたのは、やはり「研究者が経営のすべてを担う必要はない」「投資家が見るのは、技術云々の前に、やっぱり人」 という点です。
研究者は自身の強みであるサイエンスや臨床的知見の深化に専念し、ビジネス側はVCのハンズオン支援や外部のエキスパートを最適に組み合わせることで、事業の成功確率は劇的に高まります。その時に大切になるのが人と人との相性。
そして、そうした多様な外部プレイヤー(VC、専門家、金融機関、起業家)と研究者とを結びつけるハブとして、大学(琉ラボ)が果たすべき環境づくりの役割への期待が寄せられ、トークは締めくくられました。
|交流会
セミナー終了後は、先端医学研究センター5階に開設された「琉ラボMED」へと場所を移し、交流会を開催。
リラックスした空間の中、参加した医学部の先生方や学生たちが登壇ゲストの皆様を囲み、セミナー内で気になったポイントや自身の研究シーズについてフランクに相談する姿が遅くまで見られました。
今回のイベントは、研究シーズを「患者さんのもとへ届く価値」へと変えるための、非常に具体的で心強い一歩を踏み出す機会となりました。
琉ラボでは、引き続きブルーエコノミーや先端医療分野のDeep Tech系スタートアップの創出・成長に向け、様々なプログラムや伴走支援を実施してまいります。
ご参加いただいた皆様、ご登壇者の皆様、誠にありがとうございました!